まえおき:県内企業の障害者雇用状況の公表について

      −3カ年間にわたる労働局開示情報から−

 

 日本の障害者雇用の法的規制は,「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下,雇用促進法)に基づき,雇用率制度と納付金制度で成り立っています。現在(2006年)の障害者(身体障害者または知的障害者)の雇用率は,一般の民間企業で1.8%です。56人以上の企業では1人以上の障害者を雇用する義務が生ずることとなります。この制度には、後述のように克服すべきいくつかの問題があります。しかし、障害者の就労を保障する上で、少なくともこの法的基準を守ることが事態を改善する重要な足がかりとなることは確かです。

 これまで,関係団体等から「障害者雇用率未達成企業の公表をしてほしい!」との要望が強く出され、一部企業についてですが公表されたことがありました。その時期にはわずかですが実雇用率が上がったことが報告されています。2003年に東京都の障害者団体関係者が東京労働局に対して,障害者雇用率未達成企業の開示請求を行い,裁判を経て障害者雇用率未達成企業をホームページで公表するに至りました(10

 そうした経緯を踏まえ,全国障害者問題研究会茨城県支部(略称「茨障研」)は,2003年末,茨城労働局に県内の障害者雇用率未達成企業を開示請求しました。一部不開示部分もありましたが(註1),開示されたデータについて、具体的な分析を進め,「茨城県内の障害者雇用率未達成企業」と解説「茨城県における障害者雇用の現状と課題-2003年度6月1日現在,民間企業の障害者雇用未達成企業の分析-」を2004年4月、茨障研のホームページで公表しました。

 2004年12月に,引き続き2004年度分の資料を茨城労働局に開示請求しました。その結果2005年2月,ほぼ前年度と同様の項目の開示が認められました。「ほぼ前年度と同様の」としたのは,2003年度は各企業の報告書を請求したのに対し,2004年度は一覧表(報告書をまとめたもの)を開示請求したからです。開示された資料にもとづいて、前年と同様に資料と解説をインターネットで公表しました。さらに2005年2月には、新たに「障害者雇用率達成企業」についても開示請求し,開示資料の一部分をインターネット上に公表しました。

 2005年12月には,民間企業の「障害者雇用率未達成企業」と「障害者雇用率達成企業」に加えて,「独立行政法人」の「障害者雇用状況報告書」と「市町村等の機関における障害者の任免状況調査表」の開示請求をし,資料と解説をインターネットで公表(本報告)することとしました。

 なお開示請求は茨城労働局に対して行っているので,調査対象は県内すべての企業ではなく,「茨城県内に本社がある企業」に限られています。

 3カ年にわたる開示請求によって得られた資料を分析した結果

(1)  茨城県全体の民間企業の「実雇用率」と「法定雇用率達成企業の割合」の対前年度(2004年)比が,全国でも高い増加率を示した。「実雇用率」は,2005年が1.41%,2004年は1.36%,「法定雇用率達成企業の割合」は,2005年が44.2%,2004年は41.0%だった。しかし全国平均1.49%(註2)にくらべて依然として低く、全国で42位である。

(2) 茨城県では、依然として障害者の「法定雇用率」が法的基準に達していない(民間企業1.4%,法定雇用率は1.8%)。3カ年の間で、一方で基準を達成しているか、または基準に接近する雇用実績をもつ企業があるのに対して、他方では雇用率を下げ、あるいは全く雇用なしの企業も存在することなど、個々の企業別の実態と改善状況も明らかになりました。

(3) 仮に法定基準を達成するとすれば、直ちに1000人を超える障害者の雇用が見込まれる(民間企業931人,独立行政法人114人,市町村29人。2005年6月1日現在の不足数)。

(4)  行政施策の一定の前進が見られる。厚生労働省の発表(註2)によれば,2006年6月から雇用率達成指導の強化として,①法定雇用数が3~4人であるにもかかわらず0人雇用の企業に,計画作成命令を発出,②実雇用率が1.2%以上であっても不足数10人以上の企業に,計画作成命令を発出(現行は実雇用率1.2%未満かつ不足数5人以下)等が実施される。

 茨障研としては,「障害者雇用率未達成企業」「障害者雇用率達成企業」「独立行政法人」「市町村等の機関」について,今後も継続的に開示請求をし,資料の公開と分析を進めることによって、未達成企業・法人・機関を少しでもなくしていけたらと思っています。「雇用促進法」にもうたわれているように、障害者雇用の促進は,社会的責任でもあります。以下の資料分析の中で、個々の企業・法人・機関にわたって障害者雇用率の達成状況を評価しましたが、このことによって、特定企業・法人・機関を中傷・非難の対象として告発するというような意図は全くありません。このような情報の提供が,1人でも多くの障害者が就労できるように、障害者雇用の前途を一歩でも開拓するよすがとなることを願うのみです。

 私たちは、このような開示情報の分析と並行して、2005年9月、前年の開示情報をもとに、法定雇用対象の県内全企業を対象に、「障害者雇用にたいする企業サイドの対応の現状と雇用促進を困難にしている問題点」についてアンケート調査を行いました。その結果もホームページで公開いたします。本報告とあわせて参考にして頂くよう望んでおります。これによって、障害者雇用への阻害要因が一つでも明らかになり、その打開の道を開く具体的な手だてが得られることを期待しております。

 

(註1) 障害者雇用状況報告書の開示請求と不開示部分

 茨障研が2003年12月,茨城労働局に「平成15年6月1日障害者雇用率未達成企業の障害者雇用状況報告書」の開示請求をしたところ、「整理番号」「会社名」「産業分類」「労働者数(常用)」「労働者数(算定)」「(身体障害者と知的障害者)合計」「雇用率」「不足数」が開示されました。しかし一部は「不開示」とされました。

「不開示とした部分とその理由」は,以下のとおりです。

(5)   障害者雇用状況報告書「B雇用の状況」,「C事業所別の内容」欄の「⑨常用雇用身体障害者及び知的障害者の数」,「⑩重度身体障害者である短時間労働者の数」,「⑪重度知的障害者である短時間労働者の数」及び「C事業所別内容」欄の「⑫計」の各欄の記載については,その障害の種類・程度等の区分毎に数字のみが記載されているが,これらの数字がその事業所名とともに公にされた場合には,特定の障害者であること及びその障害の程度を推認することが可能となり,障害者個人の権利利益が害される恐れがあることから,法第5条第1号の不開示情報に該当するため不開示とします。

(6)   障害者雇用状況報告書「D障害者雇用推進者」及び「E記入担当者」欄は,個人に関する情報であって特定の個人を識別することができるものであり,法第5条第1号の不開示情報に該当するため不開示とします。

(7)   法人等の印影に関しては,公にすることにより偽造され不正使用の恐れがあること及び犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがある情報であり,法第5条第2号イ及び第4号に該当するため不開示とします。

(註2) 厚生労働省発表「民間企業の障害者の実雇用率は,1.49%(平成17年6月1日現在の障害者の雇用状況について)~雇用支援策を活用しつつ,雇用率達成指導の一層の強化を図る~」平成17年12月14日

 

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